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チームコンセプトは「野球後の餃子とビールを楽しむ！」

六本木を本拠地とするザ・チキンハーツは、２０１６年にスカイツリーグ初参戦した。昨年は、リーグ・MIYABI・Hグループ４位。今年は、SATELITE・Cリーグで３位となりサテライトシリーズ進出を決めている。今回は、そんなチームの横顔を、野球の歴史をつまみにしつつ、ほろ酔い気分で振り返ってみよう。ハイボールなど片手に読んでもらえれば幸いだ。

▼ザ・チキンハーツの年間リーグ成績
2018年　3位（5勝5敗0分） SATELLITE C
2017年　4位（1勝8敗1分） MIYABI H
2016年　4位（3勝6敗1分） MIYABI D

ザ・チキンハーツのホームページ

舶来物のBASEBALLは、海を渡って『鬼ごっこ』になった

「打球鬼ごっこ」
その昔、野球はそんなふうに呼ばれていた。岩倉使節団が欧米に派遣され、かの有名な廃藩置県が行われた明治時代のことだ。

アメリカ輸入のベースボールが、極東の島国に来るなり、純和風の名前に変えられてしまった。BASEが消えて、BALLだけ残され、鬼が入ってきた。その頃の東京は、まだタワーもツリーもなかった。あちこちにある原っぱが子供たちの遊び場だった。そんな一角で、いつものガキ大将のしわがれ声を合図に、この遊びが始まった。

ザ・チキンハーツの3番・松岡(17)が嬉しい今シーズン第1号2ランホームラン！

「打球鬼ごっこやろうぜ！」
そうこうしているうちに、ようやく日本人の間で疑問を抱く者が現れた。
「『打球鬼ごっこ』って呼び方、ヘンくない？」

当時、第一高等中学校のある野球部員だった。のちに東京大学教養学部となる学校だ。さすがに彼は頭脳明晰だった。見事な太刀さばきで、土着色強い名称を『野球』と短縮してみせた。野で興じる球遊び。そんなところから発想されたのだろう。原っぱも多い時代だった。白球は緑によく映えた。その呼び名は瞬く間に日本中に広がった。彼がいなければ、今頃、職業野球もプロ打球鬼ごっこと言われていたかもしれない。

蛇足だが、一般社団法人鬼ごっこ協会によれば、鬼ごっこは、平安時代の『追儺（ついな）』と呼ばれる鬼払いの儀式を起源に持つ、という。

チキンハートとライオンハート、今日の俺はどっちだ？

荒川 Lucha Libre戦で初セーブを挙げたザ・チキンハーツの奥村投手

鬼を払うには、身を危険にさらす勇敢さが必要だ。
バッターボックスに立つ者は、誰であれ、勇敢な心が求められる。ピッチャーマウンドも然りだ。

勇敢な心は、英語でライオンハートとも呼ばれる。スマップの名曲のタイトルにもなった。来た球を打つ。打者に球を投げる。そのシンプルさゆえに、知力、体力、胆力などが否応なく試される。その場面、焙り出されるのは人間性だ。怯んだら負け、始まる前から勝負が決まってしまう。能力を発揮するには、立ち向かう心がまず必要だ。ライオンハートがあってはじめて、相手の渾身の一球、一打と渡り合うことができる。
そのライオンハートの対義語をチーム名に冠したのが、六本木を根城とするザ・チキンハーツだ。これは臆病心を意味する。
チーム結成のいきさつは、こうだ。

もともと別の草野球に所属していた監督の丸田(11)に、野球未経験の友人が興味を持ち、参加したい、と申し出てきた。だが、そこは経験者しかいないチームだった。たとえ入れたとしても、素人じゃ足を引っ張りかねない。そんなことも含め断ったのだが、友人は「じゃあ」と引き下がった。「新しいチーム作って、監督やってよ！」

その通りになってしまった。友人は飲み屋稼業だった。その周辺の志願者を募ったらメンバーは水商売だらけになった。欠員が出ても、やはり同じ業界のつてで新しく入ってくる。結果、２０代から４０代まで年齢層も幅広く、華やかな業界人が集まった。言い出しっぺの彼は、器だけ残して去っていった。

確かに彼らは夜の世界では強者だった。ただ、昼間の草野球のこととなると、初心者も同然だった。そこで、強くない、できるだけ弱そうなチーム名が考案され、ザ・チキンハーツに決まった。臆病者たちと名をつけたのは、自虐でも何でもなかった。夜の世界では玄人でも、草野球では新参者。最初からでかい態度じゃ足元すくわれる。

腰は低く―礼儀やマナーに厳しい業界で身につけた鉄則を守った。だが、そこは夜を知り尽くした彼らだ。中身以上に、外見が重要なのもわかっている。ユニフォームを迷彩柄とするのに、何の迷いもなかった。

遠い原っぱの記憶、グランドに立つ者の条件

サインの確認をする奥村（写真：左）と捕手の高橋（写真：右）

例えば、後ろを走る車のボンネットに、迷彩柄の若葉マークが貼ってある。さっきからパッシングを繰り返し、猛追してくる。初心者なのに、走り屋―。そんなちょっとしたとまどいを、このチームについても抱いてしまうかもしれない。野球経験は浅くても、夜の街を生き抜いてきた経験がある。サバイバル精神は骨の髄までしみ込んでいる。

いざ試合が始まれば、隙を突き、決定的な攻撃を仕掛けてくる。チーム名とは裏腹の、そんな怖さがこのチームにはある。普段は臆病風吹かせていたとしても、ここぞというときに、勇敢な心を発揮すればいい。そのことを、夜のワイルドライフを通じ、彼らはよくわかっている。ライオンハートは、チキンハートを裏返しにしてこそ、真価が発揮される。

思い出すのは、昨年５月のWhite Starsとの公式戦だ。
７点リードのザ・チキンハーツは、最後の５回表を抑えれば完封勝利目前だった。ところが、その回に一気に１１点を奪われ、逆転負けしてしまった。この草野球史上に残る最悪の展開に、さすがに彼らもお通夜のように静まり返っているにちがいない―そんなことはなかった。試合後の打ち上げでは、いつにも増して酒が進んだ。憂さを晴らすためではない。彼らは逆転負けの犯人探しを肴に、大いに盛り上がったのだった。

そのたくましい姿に、『打球鬼ごっこ』の頃の子供たちが重なる。原っぱで白球を追いかけ、遊び心にあふれていた時代。ヘマをしても、ケロッとしている。失敗より面白さのほうが先に立つ。それはキッズ魂、あるいは単純に子供心と言っていいかもしれない。

1点差なんとか逃げ切った！力投のザ・チキンハーツ丸田(11)はシーズン初の完投勝利！

バッターボックスに立つ者は、臆病心をひっくり返す勇敢な心が求められる。ピッチャーマウンドも然り。グランドに立つ者すべてに、それは求められる。そして何より、来た球を打ち、打者に投げ、打球を捕る、そのシンプル極まりない行為に喜びを見いだす子供心を持っていなければならない。ザ・チキンハーツの選手たちには、あり余るほどそれがある。幾たびの夜を越えて、昼間に辿り着いた。迷彩柄のユニフォームには、原っぱで遊んだ打球鬼ごっこの遠い記憶が縫い込まれている。

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